あいちトリエンナーレを一日でまわる。  A 愛知芸術文化センター

 次に向かった愛知芸術文化センターは、愛知県美術館愛知県芸術劇場を併せ持つ複合施設で、このトリエンナーレにとって最も多くの作品の集まる会場だ。件の「表現の不自由展・その後」はこの会場にある展示のうちの一つだった。

 

 この会場で何よりも印象的だったのが、展示中止の掲示を撮る人が多かったことだ。

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また展示を中止した作家や実行委員会のステートメント掲示されているのも印象的。私が行った日よりもこの表示や掲示はより多くなっているだろう。


 印象に残った作品としてはタニア・ブルゲアの《10,150051 126》だ。

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入り口にスタッフがいて、メンソールのアレルギーがないかを聞かれ、作品解説を読むように言われる。作品解説を以下に引用する。

 展示室に入る前にみなさんの手にスタンプが押されます。この数字は2019年に国外へ無事に脱出した難民の数と、国外脱出が果たせずに亡くなった難民の数の合計を表しています。部屋の中には何も見えませんが、目元に刺激を感じる人もいるでしょう。場合によっては涙がこぼれるかもしれません。

 この室内は、地球規模の問題に関する数字を見せられても感情を揺さぶられない人々を、無理やり泣かせるために設計されました。

 涙が誘発されたことによって、私たちの自覚のない感情が明るみに出る場合もあるでしょう。この作品は、人間の近くを通じて「強制的な共感」を呼び起こし、客観的なデータと現実の感情を結びつけるよう試みているのです。

 この解説を読んだ後に展示室へ入った。展示室に入る前には解説にもあるように腕に数字のスタンプを押された。どうやらかなり数字を更新しているようで、作品名の数字も増えている。また展示室内の壁にある数字のスタンプも増えている。展示室内は数字以外は真っ白で、メンソールが充満している。一人になりたかったので少し長い間この展示室にいたのだが、これは効果覿面、涙が溢れてくる。客観的なデータだけを見るということと泣いたという主観的な感情が同時に体験できるということは、その問題に対して向きあうきっかけになる。それをもはや強制的に体験させるのがこの作品の醍醐味で面白く独創的な点だと思う。

 この展示室に行く前からメンソールの匂いのする人とすれ違ったりしていて、てっきり虫よけスプレーをつけているのかと思ったりしていたのだが、この展示を体験した人たちだった。

 

 次に印象に残った作品は、メインビジュアルにも採用されているウーゴ・ロンディノーネの《孤独のボキャブラリー》だ。

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 まるで生きているかのようなピエロが展示室内に点在している。全部で45体いるそうだ。それぞれが違う行動をとっており、例えば”佇む” ”呼吸する” ”寝る” などと彼らの行う行為から名前が付けられているそう。

 

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特にお気に入りを3人撮ってみた。この展示室は特に写真を撮っている人が目立ち、みんな思い思いのピエロのそばに行って記念写真を撮っていた。鮮やかな色どりの衣装に身をまとっているピエロだが、表情は無表情でとてもアンバランス。かなり広い展示室全体がこのピエロで埋まっているのにどこか静かなのが不思議でたまらなかった。まさに「孤独」の空気が流れていた。