あいちトリエンナーレを一日でまわる。  N 名古屋市美術館

 このあいちトリエンナーレは、大きく4会場に分かれているが、その全会場を合わせると9:30~20:00までなにがしかの展示を見ることができる。一番最初に開場するのは9:30開館の名古屋市美術館、一番最後に閉場するのは20:00までの四間道・円頓寺という具合だ。

 

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 というわけで一番最初は名古屋市美術館。この写真は外観と中階段の壁を撮った写真だが、これと同じような特徴がある美術館として埼玉県立近代美術館がある。同じ建築家が設計しているのですごく共通しているものも多く、印象に残っている美術館である。

 

この名古屋市美術館で印象に残っているものとして、モニカ・メイヤーの《The Clothesline》という作品がある。

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 この作品は、1978年に初めて発表され、35回以上も続けられたプロジェクトだそう。女性に対する暴力をテーマとしたプロジェクトだが、参加型のプロジェクトなので、その時代、土地、文化などによって少しずつ変化するのが特徴だ。今回のあいちトリエンナーレでは2回のステージに分けて進めてられているそうだが、この展示を見に来た鑑賞者も参加できるようになっていた。

 女性に対する暴力をテーマとした質問が書かれたいくつかの紙が机の上にあり、参加者は匿名でそのテーマについて書くことができる。その書いた紙は、机の上のポストに入れてもよいし、直接展示することも可能だ。

 私自身は参加はしなかったが、そこに展示されている匿名の体験談やアイディアなどを読んだ。読んでそのテーマについて考えること、それ自体も一種の参加であると感じた。誰かと来ていたならばそのことについて話すということも参加になるだろう。「女性に対する」と書いたが、実際女性に対する抑圧やハラスメントは男性にも起こりうることで、実際男性の体験談なども書かれていた。自分自身、「女なんだからこうあるべき」「女の子なんだから・・・」などと言われることに拒否感を覚えるようになっている。そのような言われ方は、男性だってあるだろうし、それを嫌だと感じる男性は絶対にいるだろう。フェミニズムというと、女性だけの問題に見えるが、男性の問題でもある。あくまで男女が平等に扱われることを目指しているからだ。改めて様々な人の意見が展示されていると、いろいろなことを考えさせられた。

 

また印象的な作品として、ドラ・ガルシアの《ロミオ》がある。

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 これは冷戦時代に東ドイツのスパイ・マスターが生み出した諜報戦略から着想したもので、その場にいる観客をパフォーマンスに巻き込む。このポスターはそのパフォーマンスについて説明宣伝しているもので、ポスターには、「彼らの使命は、親しみやすく、何気ない振る舞いでトリエンナーレの来場者ひとりひとりを魅了すること。・・・相手の同意があれば、より一層密接に接してこようとする。たとえば、より長い会話、ジョーク、告白、褒め言葉などで。」などと書かれている。そこには他人同士が本当の好意を抱く可能性などを示唆されていた。

 このポスターはほかの会場でも展示されていたし、このパフォーマンスもすべての会場が対象のようであるが、私が初めて見たのがこの会場だったので、ここで触れる。トリエンナーレには様々な人が訪れる。私のように一人で来た人もいるだろうし、家族や恋人、友人と来た人もいるだろう。彼らと新しい関係性が生まれる可能性ももちろんあるわけだが、《ロミオ》のパフォーマーとの新しい関係性が生まれる可能性がさらに加わるわけだ。パフォーマーだということは、それは「仕込まれた」出会いではあるわけだが、そこに何かが生まれるかもしれない。とてもワクワクするパフォーマンスだと感じた。ちなみに私は会場で彼らと会うことはできなかったし、出来ていたとしてもうまく会話が出来ていたのかは謎である。

 

aichitriennale.jp

 

 ただ上記に挙げた作品は、本来の状態で見られなくなった作品に両方ともなっており、《ロミオ》はポスター上にステートメントを掲出している。

 特に大きく変わっているのは、《The Clothesline》だが、「来場者から寄せられた回答が取り外され、破られた未記入のカードが床に散りばめられる。ロープにはステートメントが掲出され、《沈黙の Clothesline》に変わる」そうだ。ここまで来ると、もう別の作品だ。Twitterで変更になった《沈黙の Clothesline》の写真を載せている人がいたが、なかなかショッキングだった。現代美術は状況によって変化があるのが醍醐味であるなあと感じた出来事であった。

 

(8月24日追記)

 最後にもう1作品印象に残った作品を紹介する。Sholimの《Sholim Inspried by Tokyo Story》などだ。

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写真のように壁に大小さまざま液晶が展示されているのだが、画面にはGIFアニメーションが映し出されている。コラージュという技法は美術史的にもシュルレアリスムなどで用いられた技法だが、それが動くのだ。そしてGIFなので無限にループする。そのどこか奇妙で怪しげな表現とGIFのループとの相性が良くて永遠に見ていられるような作品だった。この作品の驚くべきところは、QRコードが展示室に示されており、ネット上で自由に作品を見ることができる点だ。しかも各種SNSで拡散できると書いてあるあたり、とても現代的な作品だった。

 

gifmagazine.net

特に《Dream 1》が気に入っている。